ゆきだまり 1-1「オッサンと少女」

[絵・文]:搭杢煉瓦 「くっ、くそっ、なんでだよ。なんで俺なんだよ・・・ヒックッ・・・!!」 冬の夜、一人の中年男性が誰もいない公園のベンチに座り項垂れていた。 彼の名前は鈴本太郎。40歳。独身。 大不況の煽りを受け会社からリストラを宣告された。 鈴本はひたすら酒を飲み暗い現実から背けようと思い目を瞑り眠ろうとした。 と、そのとき・・・・。 「オッサン・・・・・・オッサンってばぁ!!起きろってオッサンっ!!」 誰かの声がしつこく眠っている鈴本の耳に何度も囁く。 「オッサンっ!!・・・・ねぇ、聞いてんの?オッサン!!」 「ん?誰だ・・・その声は・・・・。」 それは今までに聞いたことのない女の声。 鈴本は目を開けて正面を向くと・・・・そこには・・・・・ 知らない少女が立っていた。 少女はカールをした白銀色の髪、瞳が青色をしていた。 そしてなぜか夏物の服であるワンピースを身に着けていた。 「なっ、なんだ?君は?」 「オッサン、ちょっとの間、あたしを匿らせて!!」 「えっ?」 「説明している暇はないや。あのハゲが追ってくるから、とりあえず オッサンの中に隠れてるね。」 「隠れてるって・・・・・おっ・・・・おい!!」 少女は身体が無数の細かい雪の粒(結晶)になり鈴本の口の中に入っていった。 「ぐっ、ぐああああああっ!!!」 鈴本の体温が下がり、冬の寒気が急になくなった。 さらに活気が沸いてきた。 「冬だというのに全く寒さが感じない!!こっ・・・これはどういうことだ!!」 鈴本はこの不思議な感覚に驚いた。 そのとき・・・・・・。 「そこの君!!この辺に銀髪の少女を見かけなかったかね!!」 年老いた住職が現れた。 鈴本は先ほど現れた少女のことだと思い話そうとしたのだが口が自由に動かず・・・・・ 「いえ、全く見てないです・・・・。」 鈴本は自分の意思に関係なく口が開いた。 「そうか、それは悪かったな。」 住職は鈴本から去っていった。 『ふぅ〜、やっとイッタか、あのハゲ坊主!!』 心の中で先ほどの少女の声が聞こえた。 すると・・・・。 鈴本は口を開けて雪粒が吐き出され、それが集まり少女の姿を形作った。 「オッサン、あたしを匿ってくれてありがとぉ。」 「き・・・きみはいったい・・・・・?」 「ん?・・・・あたし?いーじゃん。そんなことどーでも。それよりオッサンはこんなとこで 一人で何してんのさ?」 「俺のことはほっといてくれよ。」 「あっ、そうっ!!」 すると少女はすぐに去っていった。
それから10分ほどたったころ・・・・・。 「ほい・・・・・・・・オッサン。缶コーヒー買ってきたよ。」 少女は再び鈴本のもとへやってきて暖かい缶コーヒーを手渡した。 「もらっていいのかい・・・これ?」 「ああ、オッサンにやるよぉ。」 「そうか。すまないねぇ。」 鈴本は缶コーヒーを飲んだ。 「俺、長年勤めていた会社に突然リストラを宣告されたんだ。会社はサビ残、休日出勤 ありで重労働の割には安月給だけども会社のために今まで一生懸命尽くしてきたのに 裏切られるなんてな。笑っちまうよな。はははは。」 「へぇー、オッサンはそこで何の仕事してんの?」 「俺は家電製品を製造しているメーカーの下請けで今まではCADだけしかやっていなかったの だが今では不況の煽りを受けて人材がたくさん切られて工場のライン作業から製品の運送ま で業務を大幅にやらせるようになったんだ。ああ・・・・・・先週の暖房機の部品を運んでいる ときに手違いで違う現場にもっていっていかなければ・・・・・。」 「なんていうか・・・・オッサンは悪くないんじゃないのかな。あたし、助けてあげてもいいよ。」 「ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。だけど、もういいよ。君に話してスッキリしたよ。」 「そぅかなぁ?なんなら、あたしがその会社潰してあげよーかぁ?きひひっ!!」 少女は怪しい笑みを浮かべながら言った。 「まさか、そんなことできるわけないじゃないか。」 「それはどうかなぁ〜。」 すると少女はいきなり鈴本の首を掴んだ。 「ぐぐっ!!苦しいっ!!」 「ガマンしなよ、オッサン!」 少女はそう言い、再び雪の粒になり鈴本の口の中に入っていった。 「ぐっ、ぐあああああ〜〜!!!」 鈴本は先ほどと同様に寒さを感じなくなり力が沸いてきた。 『こっ、これはどうなってるんだ?なっ、また身体が動かなくなったぞ・・・・・・。』 「きひひっ・・・・・・オッサン、ちょっとの間だけコノ身体借りるね!!」 少女は鈴本の身体の中に入り操ってその場を去った・・・・・。 (つづく?)
「目次」ページへ戻る「おなにっき(((( *ノノ)」トップページへ戻る
 
inserted by FC2 system