皮のお下がり(after episode2)

【文】:搭杢煉瓦 【皮モノ、18禁】 四月三十日、午後二時。くもり。 私は久しぶりに友達のアケミの家に遊びに行くことにした。 彼女とは高校の卒業式の帰り以来、会っていない。 ずっと前から約束していた打上げにも彼女の姿はなかった。 携帯電話でメールや電話をしたのだが応答が返ってこなかったので、仕方 なく彼女抜きでそのまま高校卒業を祝って打上げをすることにした。 彼女は打上げをとても楽しみにしており必ず来ると思っていただけにと ても残念だった。 私は大学進学のため地元を離れて新住居へ向けて旅立ったのだがゴールデ ンウイークの日に地元に帰郷することになり、そのついでにアケミの家を 訪れることにした。 彼女の家は学校から少し離れた閑静な住宅街にある。 私は彼女の家を少ししか訪れたことがないのだが場所がどこにあるのか なんとなく覚えており、ゆっくりだが彼女の家へ辿り着くことができた。 彼女の庭の花壇は荒れており掘り返して何かを埋めた穴がいくつも見受 けら、その上には十字型に形造られた棒が地に向かって突き刺されており、 まるでそれは誰かのお墓のように見えた。 それに気のせいだろうか。花壇には魚の腐ったような悪臭が放っており私 は少し気分を悪くし、5分ほどその場に座り込んだのだが気を取り直して 扉前のインターホンを鳴らした。 ピンポーン〜っ!! 「アケミー、いるぅ〜?」 すると・・・。 ガチャッ!! 「はぁ〜い、どちらさまですかぁ…?」 学校のジャージを身につけているアケミが私の前に現れた。 「アケミ〜。私だよ、私。マナミだよ」 「あっ、はい…。マナミちゃんね…久しぶりだね」 私は目の前に現れた彼女を見て違和感を感じてしまった。 彼女の瞳には活気がなく、それにあまり身体を洗っていないせいなのか、 肌に張りがなく髪は乾燥している感じで全体的に新鮮さがなく、そこ にいる彼女を見て以前と比べて雰囲気が違うように感じた。 「マナミちゃん…さぁ、中へ入って」 「お邪魔しまぁーす」 私はとりあえず彼女の家の中へ入り、二階にある彼女の部屋に連れられた。 いつもなら彼女の母親に呼び止められ茶菓子などのお持て成しがあった。 さらに中学生になる妹がおり私が訪れると私に懐いてよく話しかけられ るのだが今日は誰にも呼び止められることもなく彼女の部屋へ直行した。 「あの…そういえば、おばさんはどこかへ出かけたの?姿が全く見当たら ないんだけど…」 「ああ…。ちょっと遠いところに出かけたから、しばらく戻ってこないと 思うよ」 「いつから出かけたの?」 「昨日の午後からだよ」 「へぇ〜、どこへ行ったの?」 「…遠いところにだよ」 彼女は笑顔で話していたのだが目は笑っていなかった。それどころか私を 睨み付けるかのような殺気が感じられたのでこれ以上触れないほうがい いと思い質問をこの辺で止めた。 「あっ、そういえばお土産持ってきたんだけど…」 私は鞄から地元に帰る前にお土産屋に寄ってきたときに買ってきたキー ホルダーを彼女に手渡した。 「ありがとう、マナミちゃん。大切にするよ」 彼女の人を睨み付けるような殺気を感じられる目は和らぎ打ち解け、今度 は以前のような笑顔で受け取り、さっそく鍵を出して取り付けた。 「それ、家の鍵?」 「んーん。隣にある物置き部屋の鍵だよ。私のたくさんの思い出があるか ら大切に管理したいと思ってね」 「へぇー。それじゃあ、学校のアルバムとかあるんだー」 『宅急便でーす』 「はぁーい」 「ちょっと、待っててね」 アケミは階段を降りて玄関へ向かった。 私は好奇心のあまり彼女の思い出の品が気になり鍵を持って隣の物置き 部屋へ向かった。 「アケミったら、鍵をこんなところに置きっぱなしにしてー。無用心だな〜 アケミのアルバム見させてもらうよ」 私は鍵を使いその部屋を開けた。 だが、そこには…… 「なっ、何これ…?」 私は信じられないものを見てしまい驚愕のあまり身体が震えてしまった。 そこには物干し竿に人間の身体の皮膚のようなものが3つ吊るされていた。 近づいてよく見ると顔が彼女の母親と妹と同じ顔をしていた。そして残り のひとつは男性の顔・身体をしていたために父親と推測された。 それは身体の皮膚だけで『中身』が抜き取られて薄っぺらい着ぐるみのよ うだった。 「こっ、これって…もしかして?」 すると、そのとき…… 「…見たね」 背後からすさまじい憎悪が篭った声が放たれ、私は身震いをしてしまった。 私は勇気を持って後ろを振り向くとアケミが私を今にも殺しそうな目つ きで見ていた。 「あれほど見るなって言ったのに全く仕方ないなぁ。マナミちゃんは。世 の中にはね、知らないほうが幸せなことってたくさんあるんだよ。秘密を 見られた以上は、どうやらもうここから帰すわけにはいかなくなったね」 彼女は私のもとにどんどん近づいてくる。 信じられないのだが目の前にいる彼女が危ないと感じてしまい恐怖を悟 った私は無意識のうちに逃げようとしていた。 「やっ、やああぁぁっ、来ないで!」 私は床に落ちていた血まみれの果物ナイフを手に取り防衛しようとした。 だが彼女は立ち止まることはなかったので私は恐怖のあまりナイフを振 りかざした。 「いっ…痛いな」 「きゃあああ〜〜!!」 私の手に持っているナイフが彼女の頬にかすった。 彼女の皮膚からは血が出ず、そこから別の皮膚が見えた。彼女の皮膚を誰 かが着ているように見えた。 「はぁ、はぁ、危なかった。もう少しで僕の皮膚が切れるところだった。 ああ…アケミ先輩……僕を守ってくれたんですね。ありがとうございます。」 「そっ、そんな…!」 私は彼女を見て驚いてしまった。 「それにしてもひどいな…。僕のアケミ先輩の顔によくも傷を付けたね。 許さないよ」 「あ…あなた…いったい、誰なの?」 「僕ぅ〜。…僕はヒビヤ アケミだよぉ。どこからどうみてもわかるじゃ ないかぁ」 「う、うそよ!!あなたはアケミなんかじゃない」 「しつこいな。僕はアケミだよ。この顔もこの身体も全部アケミ先輩の皮 なんだよ。卒業式の日にお下がりとして全部僕に譲ってくれたんだ。だか ら今は僕がヒビヤ アケミだよ」 彼はそう言いながら私に近づいてきた。 「やだっ、こないでっ、化け物っ!」 「化け物だなんてひどいなぁ〜。アケミ先輩に対して失礼じゃないかぁ。 アケミ先輩の知り合いは僕が全部始末してあげるよぉ」 ボゴオォ〜〜!! アケミはズボンとショーツを脱ぐとグロテスクな肉棒を露出させた。 「こっ、これって…!!」 私は彼女の股間部分に生えている男性器を見てしまった。 「あんまり僕を怒らせるから、僕の生身の部分が出てきちゃったじゃな いか。一体どうしてくれるんだい」 「やだっ、やめて、こっちこないでっ!」 「どう?これが僕の温もりだよ」 アケミの皮を纏った化け物は私の首を掴んだ。 私は手に持っているナイフで顔面の右斜め方向から上に向かって切り付 けた。すると顔に張り付いているアケミの皮が半分剥がれた。すぐさま彼 は強い力で私の手を押さえた。ナイフを床に落ちてしまい私は抵抗力を失 ってしまった。 「危ない。もう少しで僕の皮膚ごと切れるところだった。それにしても二 度も切り付けてくるなんて酷いじゃないか。もう完全に許さないよ」 「あ…あなたは…たしか…。」 「僕のこと知ってるんだねぇ。正体を見られた以上は眠っててもらうよ ぉ。マナミ先輩っ!!」 「いっ、いやああっー!!」 私は目の前にいるアケミの偽者の正体を見てしまった。 それは私の見覚えのある人物だった。それは……。 真実を知ってしまった私は必死に逃げようとしたのだが扉が開かず彼の 手にかけられてしまった。 その日以来、私はアケミの家の庭の冷たい土の下で永遠の眠りにつくこと になってしまった。その土の上には周囲の四つの穴と同様に十字型の棒が 打たれていた。
五月一日、午前九時頃。 一人の少年が二階にある物置き部屋と呼ばれている一室に入ってきた。 そこには『中身』のない人間の皮が物干し竿で干されていた。 それは艶やかな髪と潤いのある肌をしていた。 「おはよう、アケミ先輩。ようやく乾いたみたいだね。それに昨日の傷も 完治しているみたいだし、僕安心したよ」 少年はそう言うと自分の服を脱いで裸になり干されているその皮を手に 取り服を着るかのようにすぐに着ることができた。 「はぁ、はぁ、アケミ先輩の皮にまた着替えたよ。昨日の邪魔者は僕が始 末しておいたからまた一緒に安心して静かに暮らせるね。アケミ先輩を知 ってる人間は僕だけでいいんだよ。アケミ先輩はずっと僕だけの物なん だから……」 目の前においてある姿見には傷が全くない綺麗な肌をした少女が全裸で 薄ら笑いを浮かべながら立っていた。 (おわり)  
inserted by FC2 system