雨時々ザーメン3 第3話「紅蓮の景色」



そして今日は恩人である彼女の引越しの日である。
玲奈と智香は祝日のため学校は休みであり、彼女への感謝の気持ちとお別れの挨拶を伝
えるために彼女の家へ向かった。

「やぁ、今週は一段と寒くなりましたねぇ」

「うむ、もう秋も終わりだからねぇ。そろそろ雪でも降ってくるんじゃないのかな」

「降るなら綿のように柔らかい雪が良いな〜」

「そうだね」

街中にある木々はすっかり美しい紅蓮の色に染まり冷たい風と共に舞い上がり辺りを散
乱していた。
玲奈と智香、そして恩人である彼女はこうした秋の美しく深みのある紅蓮色の風景を目
の当たりにすると今までに自分たちに起きた空しくも憂鬱で悪夢のような永遠の出口の
見えない無限地獄回廊とも思わしき惨劇を忘れさせてくれる・・・・そんな素晴らしい
光景であった。

「へっくしゅん・・・」

その光景を呆然と見とれていた智香は油断したせいか、北から流れたと思われる冷たい
冬風に当たり、くしゃみをしてしまった。

「智香ちゃん、これあげる・・・・」

玲奈はそれにいち早く気付きズボンのポケットからティッシュを取り出し、智香に渡した。
さらには身に付けているマフラーまでも智香のためにと思い渡した。

「ありがとう・・・」

智香はそれにより身体を温められた。

そしてそのとき引越し業者のトラックがやってきたので彼女は業者に指示し荷づくりし
た荷物を急いで作業に取り掛かり運び出した。

「玲奈ちゃん・・・・お願いがあるの」

「ん・・・お願いって?」

「私ね、今年中にどこか旅行に行きたいと思うの。それでね、一緒に行かない?」

「なんだ、そんなことか。もちろん、いいよ」

「ありがとう・・・・」

智香は嬉しそうな表情を玲奈に向けて言った。

「でも、どこにする?」

「ん〜とね・・・・九州なんてどうかな?」

「九州かぁ。ちょっと遠いなぁ」


そのときだった・・・・

「いいんじゃないの、九州。なんなら私の住んでる所に遊びに来なよ」

彼女はこちらへ戻ってきて九州旅行に快く賛成してくれた。

「じゃあ、九州に決まりねぇ」

「やったー」

「ありがとうございます、いろいろと・・・・」

「いいよ。いつだって賑やかなほうが楽しいからねぇ」

そして太陽が少し西に傾きかけた頃、引越しの作業は完了しておりトラックはすでに発
車していた。

「じゃあ、そろそろ私も地元に帰省するとしましょうか」

「ありがとうございました。上水流さん・・・・」

「さようなら・・・・」

「おうよ。今度は私の地元で会おう。・・・・今度の旅行、良い想い出になると
いいね」

彼女は玲奈に住所や地図、連絡先などの記された紙を手渡しその場を去って行った。

「じゃあ、私たちも家に帰ろうっか」

「そうだね。・・・・でもその前にコンビニに寄っていい?あんまんが食べたいなぁ」

「もう、智香ちゃんったら本当に甘党なんだからぁ〜」

「えへへ〜」

そう言いながら二人も仲良くその場を去って行った。

(さようなら、過ぎ去った日々・・・。私たちはもう振り返らないよ・・・・)

二人は心の中でそう呟き、秋ならではの美しくも儚い紅蓮の景色に映りうる一軒の空家
とそこで起きた悪夢のような惨劇に別れを告げた。

そして新たな季節へ向かって旅立った・・・・





        

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